もうひとつの飲みもの

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ことのほか、春はゆっくりと過ぎていった。
冷気の中で、花々は命をつなぎ輝く。
匂いスミレ、キバナノクリンザクラ、プリムローズ…。
そして若い香草を摘む。

水と光でお茶を作る。微香が草の上で静かに溶けてゆく。
五感が目を覚ます。センサリーティーと呼ぼうか。
朝と夕、庭には緑の微泡がたちのぼる。

空気のトニックウォーターをごくり。
小鳥たちの声が聞こえる。魂は潤ってゆく。

萩尾エリ子 / simples