一輪の幸を

「花が咲いているよ」と、少年は小道を駆けてゆく。
「それは春のしるし。見つけた人は幸せになるのよ」と私が言うと、
彼は弾むようにまた走る。

凍てつく冬を過ごしたユキワリソウ。
少年!あれからいくつも咲いたよ。
春は、いつもよりゆっくりとやってきた。

萩尾エリ子 / simples