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暫く見たことのなかった色の夕暮れでした。
雲の流れは速く、透ける光の色は微細に変わります。

見とれて立ちつくす私たちのそばで、猫は草むらを駈けのぼりました。
ふーっと息を吐き、ふーっと息を吸い、
大きな空を見上げると、心は平らになりました。

大人になって失いかけたものを、この蓼科でいくつも取り戻しました。
毎度の夕暮れはご用意できないけれど、何かひとつ、
例えば、はらはらと散る木の葉、すすきの穂の光や柔らかさなど、
少々ですが、ご覧いただけるでしょう。
立ち止まって呼吸を整える時間も、差しあげることができるでしょう。

これから美しい紅葉を経て、冬へと向かいます。
また、お出掛け下さい。

萩尾エリ子 / simples